神戸地方裁判所 昭和63年(わ)208号 判決 1989年4月25日
本店所在地
神戸市中央区海岸通六番地建隆ビル九F
株式会社エスティーシィー
(旧商号 シンガポール産業株式会社)
(右代表者取締役 外池詳和)
本籍
神戸市兵庫区荒田町四丁目五七番地
住居
神戸市兵庫区荒田町四丁目三〇番一〇号
無職
外池新吉
大正七年一月一九日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官高橋勝出席のうえ、審理し、次のとおり判決する。
主文
被告会社株式会社エスティーシィーを罰金三億円に、被告人外池新吉を懲役二年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社エスティーシィーを(旧商号シンガポール産業株式会社)は、神戸市兵庫区荒田町四丁目三〇番一〇号に本店を置き、食肉等の輸入卸小売業を営んでいたもの、被告人外池新吉は、同社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人外池新吉は、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仕入を計上し、売上の一部を除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、
第一 昭和五九年五月一日から同六〇年四月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は六億六五九万五、九一四円で、これに対する法人税額は二億五、九九九万九、七〇〇円であるにもかかわらず、同六〇年七月一日、神戸市兵庫区水木通二丁目一番四号所在の所轄税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が五、九六三万七、六七八円で、これに対する法人税額が二、三二二万四、八〇〇円(但し、申告書は二、三二二万二、三〇〇円と誤つて記載)である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額二億五、九九九万九、七〇〇円との差額二億三、六七七万四、九〇〇円を免れ、
第二 昭和六〇年五月一日から同六一年四月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は一一億四、〇九三万六、三〇八円で、これに対する法人税額は四億九、〇九四万六〇〇円であるにもかかわらず、同六一年六月三〇日、前記兵庫税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が八、九六二万七、〇三八円で、これに対する法人税額が三、五七六万七、九〇〇円(但し、申告書は三、五七五万九、八〇〇円と誤つて記載)である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額四億九、〇九四万六〇〇円との差額四億五、五一七万二、七〇〇円を免れ、
第三 昭和六一年五月一日から同六二年四月三〇日までの事業年度における実際の所得金額は一七億二、八七四万二、九七四円で、これに対する法人税額は七億二、〇六〇万五、四〇〇円であるにもかかわらず、同六二年六月三〇日、前記兵庫税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一億三、六一〇万三、六九三円で、これに対する法人税額が五、一七二万八、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額七億二、〇六〇万五、四〇〇円との差額六億六、八八七万七、三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人外池新吉の当公判廷における供述
一 被告会社代表者外池詳和の当公判定における供述
一 被告人外池新吉の検察官に対する各供述調書(但し、検甲122号、127号を除く。)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 外池詳和の検察官に対する各供述調書(但し、検甲104号を除く。)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(但し、同88号、101号を除く。)
一 外池新治の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(検甲81号ないし83号)
一 川野三重子の検察官に対する各供述調書(検甲67号ないし70号)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 谷典親の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 八木幹弘の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲74号)
一 外池栄作(検甲86号)、尾上幹子、中山也人の検察官に対する各供述調書
一 河野洵(検甲49号)、千代英一、上平義弘、阿部嘉之、大島浩、岡本幸信、赤西敏一、吉田博己の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料の抄本
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲2号)及び証明書(同5号)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲3号)及び証明書(同6号)
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲4号)及び証明書(同7号)
(法令の適用)
被告会社につき
一 判示各所為 いずれも法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項
一 併合罪 刑法四五条前段、四八条二項
被告人外池新吉につき
一 判示各所為 いずれも法人税法一五九条一項
一 刑の選択 いずれも懲役刑選択
一 併合罪 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に加重)
(量刑の理由)
本件は、食肉の輸入卸小売等を目的とする被告会社の代表取締役であつた被告人外池新吉が、被告会社に関し、三事業年度にわたり、合計三一億九、〇九〇万円余の所得を秘匿し、合計一三億六、〇八二万円余の法人税を免れたという事案であつて、そのほ脱額は極めて巨額で、過去の同種事案の中でも屈指のものといえ、ほ脱率も平均して九二パーセントと高率であり、稀れにみる悪質かつ重大な脱税事犯である。犯行の動機としては、被告人は、尋常小学校を卒業して、すぐに食肉店に勤め大変な努力をして被告会社を設立し、自ら代表取締役に就任するとともに子供らを取締役にして被告会社をワンマン経営してきたが、昭和五八年ころから、取引先が増えるとともに円高の影響で、被告会社に多額の利益が生じたため、被告人は、将来の牛肉の輸入自由化に備え、被告会社に資金力をつけて被告会社を生き残らせ、子供たちに財産を残してやりたいとの考えから本件脱税に及んだもので、そうした被告人の心情はそれなりに理解できないではないが、その手段方法には自すと限度があつて、そのために脱税が正当化されるものではなく、とりわけ、被告会社は被告人の支配する企業であり、つまるところ、脱税は私的利益の増大に直結しているのであつて、本件動機において、特に斟酌すべきものがあるとは思われない。また、被告人は、本件犯行に際し、自ら架空の仕入れ額、仕入先等を決定し、これを経理担当者等に指示して架空の仕入伝票等を作成させたり、各期末において、過少の申告所得額を同人らに指示し売上の繰り延べや棚卸しの除外等をさせるなどし、脱税により捻出した資金は、被告会社の従業員の簿外給与や賞与の支給、得意先のレストラン等の関係者に対する交際費等に使う他、簿外開設した仮名、借名の預金口座に入金して貯蓄したり、債権を購入したりなどして巨額の所得を隠蔽していたもので、犯行の態様は悪質といわねばならない。加えて、被告人は、同五八年及び同六〇年に被告会社につき税務署の調査を受け、修正申告を余儀なくされたことがあり、更に、子供らから本件脱税について反対されながら、これを意に介さず、本件脱税を敢行しているもので、被告人の納税意識の稀薄さには顕著なものがあり、これらの事情に鑑みると、被告会社及び被告人の刑事責任は相当重いといわねばならない。してみると、本件につき、被告会社が修正申告をなし、それに基づき本税、重加算税等として合計一九億五、八九九万円余を、そして、本件期間中の法人事業税及び地方税として合計六億七、五四二万円をそれぞれ全額納付済みであること、本件発覚後、再犯を防止するため被告会社の整理体制を整備したこと、被告人は本件を深く反省し、これまで務めていた食肉業界の各種組合の役員を辞めた他、被告会社の代表取引の地位を子供に譲り被告会社の経営から一切手を引いたこと、被告人がこれまで食肉業界の発展に貢献をしてきたことや高齢である上、腸管癒着症、変形性足関節症等の持病があり健康状態がすぐれないこと、その他弁護人指摘の種々の情状を十分に斟酌しても、本件の如き申告納税制度の根幹を破壊するようなほ脱事犯については厳罰をもつて臨まざるを得ず、被告人については主文の実刑を免がれず、被告会社についても主文の罰金刑はやむを得ないものと思料した次第である。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 東尾龍一)